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2026年度 診療報酬改定【364号】

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税理士法人 中央総研

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中央総研について

昨年末の予算編成の過程で診療報酬の本体部分の改定率はプラス3.09%と決まっていましたが、2月13日に開催された中央社会保険医療協議会総会において、新点数や新施設基準等の概要が明らかになりました。この2026年度の診療報酬改定は、日本の医療提供体制における大きな転換点となるのかもしれません。長年にわたり、デフレ経済下で「医療費抑制」を主眼に置いてきた従来の路線から、賃金と物価が持続的に上昇する「成長型経済」に即した構造へと舵を切ったからです。今回の改定のポイントは、「医療の適正価格化」と「現場への適切な資源配分」にあります。大幅なプラス改定の背景は何なのでしょうか。また私たちにどのような影響を与えるのでしょうか。

 改定率「プラス3.09%」

「診療報酬本体プラス3.09%」という数字は、1996年度以来、30年ぶりの高水準です。特に2014年度以降は1%を下回る改定率が続いていました。前回の2024年度改定では不十分だった物価高騰や他産業の賃上げスピードに対応するため、政府が「医療従事者の処遇改善」を最優先課題に掲げた結果といえます。このプラス3.09%の内訳は下記の通りです。

  • 賃上げ対応分(プラス1.70%):医療従事者のベースアップを直接的に支援する財源となります。2026年度、2027年度ともに3.2%の賃上げ、看護助手や事務職員については5.7%の賃上げを目指します。
  • 物価高騰対応分(プラス0.76%):高騰する光熱水費や食材費、医療材料費を補填し、医療機関の経営を維持するためのものです。
  • 食費・光熱水費分(プラス0.09%):入院時の食事基準額が1食40円、光熱水費は1日60円増額されます(後述)。
  • 緊急対応分(プラス0.44%):2024年度の改定幅が小さすぎたために生じた経営難を事後的に救済する、極めて異例の措置です。
  • 効率化分(マイナス0.15%):ジェネリック医薬品、リフィル処方箋(一定期間3回以内ならば診察なしで薬を受け取ることが可能)の活用促進などによるものです。
  • その他通常改定分(プラス0.25%):上記以外の改定分で、医科、歯科、調剤へそれぞれ割り当てられます。

段階的な改定

今回の改定における運用面での最大の特徴は、2年間の改定率を段階的に変える仕組みです。2026年度がプラス2.41%、2027年度はプラス3.77%とされています(平均でプラス3.09%)。このような改定は、将来の経済動向への柔軟性を持たせつつ、継続的な賃上げを確約するための苦肉の策でもあります。医療機関にとっては2年連続で収入が増加する一方、患者にとっても「2年連続で窓口負担が変わる」ことを意味します。

外来受診への影響

患者が最も直接的に感じる変化は、初診料や再診料の引き上げです。これらは「技術の対価」に加え、今後は「インフレコスト」や「賃上げ原資」としての性格を強めます。2024年時点で291点だった初診料本体は、物価・緊急対応分(約1.2%相当)の上乗せにより、295~296点前後へと引き上げられる見込みです。ここに、拡充された「ベースアップ評価料」や「医療DX推進体制整備加算」が加わります。結果として、初診時の総点数は現在の300点台前半から310~320点台へと上昇し、3割負担の患者であれば、窓口での支払いは現在より30円~60円程度高くなる計算です。また、再診料も同様に1~2点(10~20円)程度の引き上げが見込まれます。慢性疾患で月に何度も通院する患者にとっては、年間数千円単位の累積的な負担増となります。そして、今回の改定では「病院」への配分が「診療所」の約5倍にもなる配分がなされています。設備維持コストが重い大病院を受診するほど、値上げ幅が大きくなる傾向がある点に注意が必要です。

入院時の食事代と光熱水費

入院患者にとって、医療費以上に家計を圧迫するのが実費負担の増額です。これまでは据え置かれてきた項目が、インフレの影響を反映して一気に引き上げられます。食事代は1食あたり40円増、1日3食で120円、1ヶ月で3,600円の負担増です。そして光熱水費(生活療養費)は1日あたり60円増です。これらを合わせると、入院患者は1日あたり180円、1ヶ月で約5,400円の追加負担となります。これは「治療」ではなく、純粋に「生活コスト」の転嫁であり、特に年金生活者にとっては重い負担となります。

「OTC類似薬」の選定療養化

今回の改定で最も物議を醸し、患者の負担を大きく変えるのが「OTC類似薬(市販薬と同じ成分の薬)」の扱いです。湿布、保湿剤、解熱鎮痛剤など約1,100品目が対象となります。今後は、これらの薬の費用の25%を選定療養費として「全額自己負担」し、残りの75%にのみ保険が適用されます。3割負担の患者であれば支払額は約1.6倍に増加となり、1割負担の高齢者については選定療養費に年齢による軽減がないため、支払額は従来の3倍以上となります。この制度は、軽い症状であれば「病院でもらう方が安い」という状況を解消し、ドラッグストアでの購入を促す狙いがありますが、常用者にとっては事実上の大幅な値上げとなります。

 医療DXと「かかりつけ医」の選択

今後の受診において、医療機関の「デジタル化」への対応状況が支払額を左右します。マイナ保険証の利用率や電子処方箋の導入状況が高い医療機関では「医療DX推進体制整備加算」が算定され、患者の負担は増えますが、その分、重複投薬の防止やデータに基づいた質の高い診療が受けられる仕組みです。また、「かかりつけ医機能」の評価が強化されるため、特定のクリニックをかかりつけ医として登録・利用するかどうかで、受けられるサービスや管理料に差が出てくることになります。

2026年度診療報酬改定の本質は、医療現場の崩壊を防ぐための「コストの適正な転嫁」です。初診料・再診料や食事代の引き上げ、そしてOTC類似薬の自己負担増は、患者にとっては「痛み」を伴うものです。しかし、その増額分が医師や看護師、事務員の賃上げ、高騰するエネルギー価格への対応、院内設備の購入に充てられ、安心・安全でより質の高い医療が提供されることによる「喜び」も得られることを期待します。

(樋口)

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