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日本国内に広がる物価上昇の波【265号】

「うまい棒 値上げ!」のニュースに驚かれた方も多くいらっしゃったと思います。現在の税抜1本10円の参考価格が、4月出荷分から12円に値上げされるそうです。原材料のコーンや植物油の価格が上昇しているうえ、包装材料費や運送費も高騰しているため、発売から40年以上維持してきた価格(1本10円)の値上げを決断したようです。
ミスタードーナツも2022年3月から33商品を全店で値上げすると発表しており、原材料価格の高騰を巡り、飲食店や食品メーカーの値上げが相次いでいます。

消費者物価の上昇

2021年12月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が100.0となり、前年同月比で0.5%上昇しました。消費者物価指数は、消費者が購入するモノやサービスなどの価格の変動を示した指標で、上昇は4カ月連続です。ガソリンや電気代などエネルギー関連の値上がりが全体を押し上げたほか、食料(生鮮食品を除く)も上昇しました。
なお、直近の消費者物価は、2つの特殊要因の影響も受けています。携帯電話通信料の値下げ(前年同月比-53.6%)が指数を1.48ポイント押し下げている一方で、観光需要喚起策「Go To トラベル」の停止による反動で、宿泊料が44.0%上昇し、指数を0.29ポイント押し上げています。これらの特殊要因を除くと、消費者物価上昇率は約1.7%になります。

企業物価はオイルショック以来の高水準

消費者物価上昇のきっかけは、資源高と円安です。
2021年12月の企業物価指数(速報)は前年同月比で8.5%の上昇でした。企業物価指数は企業間で取引されるモノの価格動向を示す指標で、直近の伸び率は10月8.3%、11月9.2%と大幅な上昇が続いており、オイルショックの影響があった1980年12月(10.4%)以来の歴史的な高水準で推移しています。
2021年12月の上昇率を品目別にみますと、ガソリンや灯油などの石油・石炭製品(36.6%)、木材・木製品(61.3%)、鉄鋼(25.5%)の大幅な上昇率が目立ちます。

資源価格上昇と円安で輸入物価大幅上昇

円安による輸入物価への影響も大きくなっています。
輸入品の価格の動向を示す輸入物価指数は、2021年12月(速報)の上昇率(円ベース)が、前年同月比41.9%となり、11月(45.2%)に続いて40%を超え、1980年6月(46.6%)以来の高い水準が続いています。
輸入物価指数は、為替要因によっても大きく変動しますので、「円ベース(円換算したもの)」と「契約通貨ベース」の2種類の指数が公表されています。このうち契約通貨ベースは、2021年12月の上昇率が33.3%と、円ベース(41.9%)を大きく下回りました。つまり、円換算したときの輸入品の値上がりが顕著になっており、円安が輸入品の値上がりを更に押し上げています。

消費者物価上昇率2%達成?

米欧ではインフレが進んでいますが、これまでの日本企業は、前述の企業物価指数の上昇率(8.5%)と消費者物価指数の上昇率(0.5%)の差(コスト上昇分)を、自社で吸収してきたと考えられます。しかし、日本国内でも、企業が資源高や円安による原材料高によるコスト上昇分を販売価格に転嫁し、値上げを実施する動きが広がり始めています。
特に食料(生鮮食品を除く)は、現に値上げが予定されている品目が数多くあります。食料やガソリンなどの値上がり次第では、政府・日銀が目標としてきた物価上昇率2%に達する可能性もあります。しかし、この物価の上昇は、日本経済にとって望ましいものではありません。

日本の物価上昇はコストプッシュ型のインフレ

日本の物価は、米欧ほど物価上昇率が大きくないとはいえ、足元では上昇傾向にあります。ただ今の日本の物価上昇は、原油や穀物などの輸入物価の上昇により生じた物価の上昇(コストプッシュ型のインフレ)であり、所得が海外に流出してしまうことから、望ましい物価上昇ではありません。特に食料やガソリンなどの生活必需品の価格上昇は、支出に占める生活必需品の割合が高い低所得層の負担をより高めることになります。
政府・日銀が目標とする安定的な物価上昇の為には、需要の拡大により物価の上昇(ディマンドプル型インフレ)が起こることが、望ましい物価上昇といえます。この需要の拡大には賃金の上昇が欠かせません。物価上昇時では、賃金の上昇率が物価上昇率を上回らなければ、消費者の購買力は上がりません。しかし、賃上げのハードルは高く、2021年12月の実質賃金(速報)は前年比2.2%減と4カ月連続で低下し、2020年5月以来のマイナス幅となっています。
いま値上げの波が国内に広がっていますが、実質賃金の低下が続きますと消費者の購買力は低下しますので、値上げは消費の回復に水をさすことになりかねません。また、単純な値上げは顧客離れにつながる可能性があり、企業も値上げを慎重に判断しなければならなりません。一方、企業が値上げに躊躇し、コスト上昇分を販売価格に上乗せできなくなりますと、企業業績に影響を及ぼしますので、国内景気を下押しする恐れがあります。

(小島淳次)

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