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2020年の日本経済の見通し【220号】

謹んで新春のお祝詞を申し上げます。
昨年中は格別のご厚情を賜り、厚く御礼申し上げます。

 2019年の日本経済は、輸出がふるわなかったものの、消費税率が引き上げられるまでは、底堅い個人消費と設備投資の増加が日本経済を支えました。消費税率引き上げ直前の20199月の家計調査によると、2人以上の世帯の家計消費支出は前年同月比9.5%増加し、駆け込み需要などで201979月期の実質国内総生産(GDP)が前期比0.4%増の成長を記録しました。一方、消費税率引き上げ直後の201910月の家計消費支出は、前年同月比5.1%減となり、20191012月期の実質GDPは、駆け込み需要の反動減によりマイナス成長に陥る可能性が高いです。

消費税率引き上げの影響
 2020年の日本経済を展望するには、この消費税率引き上げの影響が長引くかどうかが重要になると思います。2014年の消費税率引き上げ時は、個人消費の低迷が長引きましたが、今回は、前回よりも消費税率引き上げの影響が小さく、個人消費の低迷が長引くことはないと思われます。消費税率引き上げによる消費支出の鈍化により、2020年の成長率の低下は避けられない見込みですが、個人消費の基調を決める雇用・所得環境が良好であること、増税幅が2%と小幅なうえに飲食料品へ軽減税率が適用されたこと、キャッシュレス決済時のポイント還元などの政策が消費を下支えすると考えられることから、前回のような消費低迷の長期化は避けられると見込んでいます。さらに、20207月には東京五輪が開催されます。

東京五輪後の国内景気
 2020年は、東京五輪に向けて国内景気が盛り上げることが期待されています。その一方で、東京五輪後の景気失速を予測する声が絶えません。景気失速への不安は、五輪後の建設投資特需の一巡やインバウンド(訪日外国人客)消費が一服するとの懸念から生じています。
 しかし、日本の建設業は、人手不足により供給制約が強まっており、他の五輪開催国に比べて、建設投資のラッシュが発生しておらず、五輪関連需要がピークアウトした現在も交通・ホテルなどのインフラ関連やオフィスの建設需要が底堅い状況です。
 インバウンド需要についても、五輪開催により訪日客を受け入れる環境整備が進み、日本の観光競争力は向上していることから、五輪後も訪日客が増加することを期待できます。 これらの理由により、五輪後も建設需要やインバウンド需要が堅調であることを予想できるので、五輪終了そのものが景気を失速させる主因になることはないと考えています。ただし、五輪終了後の日本経済は、世界経済減速の影響を受けることが懸念されます。

世界経済の同時減速
 国際通貨基金(IMF)は世界経済見通し(昨年10月公表)において、世界経済は各国で成長の同時減速を続けており、2019年の成長率を再び下方修正し、世界金融危機以降で最も低い3.0%と予測しています。この減速は、貿易障壁や地政学的な情勢をめぐる不透明感の増大を要因としています。IMFは、米中貿易摩擦が2020年における世界GDPの水準を累積で0.8%引き下げるものと推計しており、2018年に2.9%であった米国の成長率が、2020年には2.1%まで低下すると予測し、中国の成長率も、2020年に5.8%(20186.6%)に低下すると予測しています。
 米中の貿易協議は、昨年12月に第1段階の合意に達しましたが、合意内容は中国による米国製品の大量購入など合意しやすい分野に過ぎず、米国が改善を求めている産業補助金などの項目は棚上げされています。202011月に実施される米大統領選も米中協議の行方に大きな影響を及ぼす可能性があります。今回の大統領選挙も接戦になることが予想されるため、トランプ大統領は、支持を得るために、中国に対して強い姿勢を続ける必要があります。米中の摩擦は強まっていくと思われます。

成長率の下振れリスク
 2020年の日本経済は、消費税率の引き上げに伴う個人消費の鈍化により、成長率が低下することが予測されます。このような状況下において、米中の貿易協議が長期化し、世界経済の同時減速が続きますと、日本経済の成長率がさらに低下する可能性は高いとみています。「5G」関連の投資が本格化するという明るい材料もあり、2020年前半は半導体市況の回復を期待できるだけに、米中の対立がこれ以上深刻化しないことが望まれます。
 さらには、英国のEU離脱(ブレグジット)や地政学的な緊張の高まりも成長率が低下するリスクとなります。
 そして、キャッシュレス決済時のポイント還元制度の終了にも注意が必要です。消費税率の引上げに伴い導入されたポイント還元は、消費税率引き上げ後の消費の落ち込みを緩和しているようですが、20206月にこのポイント還元制度は終了します。
 もし米中の貿易摩擦の激化などにより世界経済が悪化し、日本の輸出・生産が減少しますと、雇用や所得環境に悪影響を及ぼし、購買力を低下させます。この世界経済の減速による影響に加え、ポイント還元の終了が重なりますと、2020年後半は個人消費が減少し、五輪終了後の景気失速懸念が現実になってしまう可能性があります。

 このように、2020年の日本経済は心もとない状態にあるため、底堅い状況が続くと見込まれている2020年前半のうちに、景気減速への備えをしておく必要があると思います。特に中小企業は、景気減速の影響を大きく受けるため、足元の経済環境が堅調なうちに、経済環境の変化に備えることが必要な一年になると思います。

 本年も何とぞよろしく、ご愛顧のほどお願い申し上げます。

(小島淳次)

 

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