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超高齢化社会での相続対策と老後資金対策【345号】

高齢化は日本で進行している社会現象です。数十年前から進行しており、現在では深刻な状況まで来ています。
さらに団塊世代が後期高齢者となることで一気に高齢化社会が進行していきます。
厚生労働省の推計によると2025年以降には65歳以上の高齢者の約20%が認知症になると予想されています。
つまり、65歳以上の人口の5人に1人が認知症を発症する計算になります。
このような高齢化社会において相続人が認知症を発症してしまう可能性があります。

相続対策(相続発生後の対策)

遺産分割協議書は相続人全員で行うことになっていますが、相続人の中に認知症により判断能力が低下している方がいる場合は遺産分割協議を行うことができません。
しかし、このような場合には成年後見制度を利用することにより、成年後見人を選任して遺産分割協議を進めることができます。

成年後見制度の概要図

成年後見制度には使いづらい面も

後見人は親族以外が選ばれる可能性が高い

まず、親族は後見人に選ばれず専門家が選ばれてしまう可能性が高いことです。成年後見人を誰にするかの決定権は、家庭裁判所が持っています。ここ数年間の傾向では、成年後見人の属性で親族の割合は下がり、弁護士や司法書士といった専門家などの割合が増えてきています。

後見人には報酬が発生する

選任する場合は、目安は最低月2万円、財産額によっては月5~6万円になることもあります。後見制度は原則として途中で止めることができないので、認知症のお親御さんが亡くなるまで後見人が就き、報酬も発生します。

そのほかの相続人の意図通りになるとは限らない

認知症のお親御さんに後見人をつけることで遺産分割協議ができますが、その他の相続人の意図通りになるとは限りません。後見人の使命は「お親御さんの財産を守ること」です。後見人として法定相続分を死守します。

認知症の家族がいるときの生前対策

相続人の1人が認知症などにより判断能力が低下している場合は、遺産分割協議をすることができません。長寿化が進む中、例えば、お父様の相続でお母様が認知症の診断を受けているというケースは今後増えていくと思われます。相続発生後のトラブルを回避するため、お父様が生前にできる対策を解説します。

遺言書を作成する

お父様が生前に「遺言書(公正証書)」を作成しておくことです。遺言で「誰に何を相続させるか」を決めていれば、遺産分割協議をせずとも不動産や預貯金について相続手続きをすることができます。近年は遺言書作成が増加しています。

<日本公証人連合会「遺言公正証書の作成件数について」/令和5年>

民事信託(家族信託)をする

お父様とお子様があらかじめ家族信託をしておいて承継先を定めておくことでも、同様に遺産分割協議を回避することができます。お父様の死後、お子様は事前にした契約通り信託財産を管理、運用、処分ができます。

生前に贈与をする

不動産や預貯金などの財産を生前贈与するのはひとつの方法です。しかし、控除額以上の贈与をした場合には贈与税がかかります。
また、亡くなった年の前年7年以内に行われた相続人に対しての贈与はなかったものとみなして相続税を計算するため相続の際に注意が必要です。

老後資金対策

 2019年、金融庁のワーキンググループが厚生労働省のデータを基に「老後には2,000万円の資金が必要である」との資料を作成していたことがメディアに拡散され話題となりました。もともとのデータは夫65歳以上・妻60歳以上の夫婦がともに無職の場合を想定して試算されたものです。このモデルでは月々の収入が20万9,000円に対し、支出は26万4,000円となり、毎月約5万5,000円の赤字が発生します。仮に夫が95歳まで生きた場合この赤字が30年間続き、結果として1980万円が不足するという試算が「老後2,000万円問題」です。

預貯金

2025年4月現在の預金金利は、普通預金で0.1%、10年定期預金で0.4%程度です。2024年3月のマイナス金利解除以降段階的に利上げが行われた結果、1年前に比べると金利は大きく上昇しました。しかし、アメリカの定期預金金利が3%前後なのを考えると、まだまだ低いと考えられます。

株式投資

株式投資は個別に上場会社の株式を買う方法と、投資信託やETF(上場投資信託)を通じて株式を買う方法があります。投資信託は「米国の優良企業を集めたパック商品を10,000円分」というように少額から始められるのが特長です。

株式投資は元本保証がなく、企業の業績や市場の変動などによって損失が出るリスクがあります。一方、預貯金に比べて高い利回りが期待できるほか、インフレに備えられるメリットがあります。

通常、株式売買は利益に対して20.315%の所得税等がかかりますが、NISAを利用すれば上限額まで非課税で運用できます。NISAは2024年の制度改正で非課税保有期間が無期限になり、年間投資枠が最大年間360万円まで拡充されたため、老後に向けての資産形成により使いやすくなりました。

iDeCo

iDeCoは原則20歳以上65歳未満であれば誰でも利用できる、個人が老後資金を作る私的年金制度です。個人型確定拠出年金と呼ばれ、月額5,000円から始められます。加入している年金の種類などによって上限はありますが、自分で決めた金額を定期預金、保険、投資信託などの金融商品で運用できます。

iDeCoには、「掛金は全額が所得控除対象」「運用利益は全て非課税」「受取時にも税制優遇」といった税制上のメリットが多数あります。

iDeCoは全額が「小規模企業共済等掛金控除」という所得控除の対象になるため、掛金が多いほど節税効果が高くなります。また、手数料は毎月の拠出金額に関わらず一律でかかるため、掛金が多いほど金額当たりの手数料負担が軽くなります。

一方、原則60歳まで引き出すことができないのがデメリットです。

不動産投資

老後の資金対策として不動産投資は、安定的な収入源として老後の資金を確保する上で有効な手段の一つとして注目されています。

家賃収入

メリット

不動産から得られる家賃収入は年金や他の投資と比べて比較的安定しているため、老後の生活費を賄う上で安心感があります。

デメリット(リスク)

家賃収入のデメリットには3つのリスクがあります。

  1. 空室リスク
  2. 賃料下落リスク
  3. 金利上昇リスク

インフレ時には不動産の価値が上がる傾向があるため、インフレによる資産価値の減少を防ぐことに一定の効果が期待できます。

自分自身でも知識を身につけることがポイントです。投資物件を購入する際も、言われたままの物件にするのではなく、自分でも情報収集した上で十分に納得できるものを選ぶのが大切です。無理のない範囲でまとまった自己資金を用意することも重要です。

最後に

老後対策は老後の生活をより豊かに、そして安心して送るためには、早期からの準備が不可欠です。老後資金の確保、健康維持、そして精神的な充実など、様々な側面から対策を進める必要があります。

(新堀)

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